[転載] 『週刊現代』2010年4月3日号(講談社)
今週のうまいもの番付 第33回 辛さがやみつきになる担々麺

今週は食べ歩きサイト「So Tasty-担々麺」の管理人である戸台純一氏が東京周辺に数ある名店のなかから、イチオシの10杯をオススメします!

 担々麺は、健康的な料理だ。唐辛子の辛味で塩分を補うことができ、また山椒にゴマ、酢など体にいい食材がふんだんに使われる。そのため、健康志向の高まるにつれて、かつての“激辛ブーム”とは違った形で、外食産業の中での堅実な地位を確保しつつあるようだ。
 一口に「担々麺」と言っても、その味は様々である。練りゴマ入りのコッテリとしたものから、“唐辛子入りの味噌ラーメン”という趣の一品まで、店により多種多彩な味付けがあり、人の好みもそれぞれ。そんな中で私が愛するのは、担々麺の生まれ故郷である中国・四川の味、つまり山椒の香りが立った、ピリリと刺激的な一杯だ。
 これまで2000食以上の担々麺を食べてきた中で、そんな珠玉の担々麺を出す「横綱」として挙げたいのは、新板橋の『栄児家庭料理 板橋本店』。「担々麺」、「汁なし担々麺」(各1000円)とも、本場四川の力強い味が楽しめる名店である。
 久しぶりにこの店を訪れたのは、3月上旬の週末。開店時間は17時半なので、仕事帰りに、もっちりとした「水餃子」(10個/800円)や、舌がビリビリと痺れる「マーボ豆腐」(1000円)で一杯やり、締めとして担々麺を注文する。
 「汁あり」は、醤油ベースの透明度が高いスープに、山椒がしっかり利いた逸品。こちらも抜群にうまいが、私のオススメは、本場四川で出されるオーソドックスなスタイルであり、メディアでも度々取り上げられている「汁なし」である。辛さは、「辛め・普通・控えめ」から選ぶことができるが、今回は「普通」を頼むとしよう。それでも十分に辛いので、苦手な向きはご注意を。
 注文後、10分程度で席に届いた丼からは、山椒の鮮烈な香りが立ち上る。麺の上に載った挽肉は、よくあるとろみをつけた餡状のものではなく、刻み芽菜と一緒に炒めたシンプルなものだ。麺の下にはタレと刻みネギ、食感に変化を与える炒めピーナッツがあり、四川省出身の名物オーナー・丸藤栄子さんが、「よく混ぜてから食べてくださいね」とアドバイスをくれる。
 言われたとおりに底からよく混ぜ返し、赤茶色に染まった麺をすする。タレのベースは、四川省から取り寄せた山椒、中国産の唐辛子、白ゴマなどを加えて作った、自家製ラー油。一口ごとに汗が噴き出す爽快感は、まさに担々麺の醍醐味だ。
 さらに、唐辛子の辛味や、山椒の麻味(舌が痺れるような辛さ)だけではなく、ゴマの香ばしさ、黒酢の酸味、肉汁と醤油のコクが複雑に絡み合い、深い旨みが口いっぱいに広がっていく。この日も箸が止まらず、一気に平らげてしまった。オーナーの「食通で知られる有名人のファンも多いんですよ」という言葉も頷ける逸品である。
 大関には、担々麺の元祖である『四川飯店』の系列店から、『六本木 四川飯店』を推す。日本に四川料理を伝えた中華の巨匠・陳建民氏が'58年、西新橋に1号店を開いた。当初は、本場四川風の「汁なし担々麺」を出していたが、なかなか人気が出ず、ラーメン好きの日本人に合わせて「汁あり」を出すことに。これが、日本の担々麺の原点とされる。
 そんな歴史への敬意もあるが、唐辛子や山椒を丁寧に炒め、サッパリと上品に仕上げた、汁ありの「担々麺」(1155円)は、やはり一級品。その中でも六本木店は、上品さを残しながらも、かなりの辛口で、担々麺好きの本能を刺激するような、ワイルドな味を実現している。
 より上品な担々麺を食べたいなら、地下鉄千代田線・綾瀬駅から徒歩10分の人気ラーメン店『風雅 本店』がいい。この店の「担々麺」(880円)は、練りゴマとピーナッツが活きた、まったりとしたスープが印象的だが、しつこさをまったく感じさせないのが素晴らしい。化学調味料を一切使わず、ローストしたエビから煮出した出汁を利かせて、しっかりとインパクトを残してくれる。自家製のラー油が味を引き締めており、そのセンスには感服せざるを得ない。
 ちなみに『風雅』は、ネットで、「お取り寄せ担々麺」(4食2250円)を通販している。これも店の味が再現されており、これまで食べたインスタント系やお取り寄せの担々麺では、ダントツで美味しかった。担々麺好きならば、一食の価値ありだ。
 私は25年前に初めて食べた担々麺に衝撃を受け、食べ歩きを続けてきたが、今でも新たな味に出会うことが多く、食べ飽きることがない。刺激的かつ健康的な担々麺を食べ、今日も気持ちのいい汗をかこう。


横綱 栄児 家庭料理 板橋本店 新板橋
四川料理の神髄を味わえるお店。提供看板メニューの「汁なし担々麺」(1000円)をはじめ、やみつきになる辛さが魅力の料理を提供する。
東京都板橋区板橋3-34-12

大関 中国家庭料理 楊 2号店 池袋
アットホームな雰囲気の中国家庭料理屋。四角い深皿で出される「汁なし担々麺」(780円)は練りゴマの香りが高く、太麺で食べ応えも十分。
東京都豊島区西池袋3-25-5

大関 六本木 四川飯店 六本木
陳建一が手掛ける有名店。「担々麺」「汁なし担々麺」(各1155円)や、「麻婆豆腐」(1890円)など、本場四川の味を提供。
東京都港区六本木7-15-17 ユニ六本木ビル4F

大関 四川担担麺 阿吽 湯島
化学調味料を使わず、四川料理としての担々麺を追求する専門店。干しエビ、山椒の風味が効いた「阿吽担担麺」「つゆ無し担担麺」は、各800円。
東京都文京区湯島3-25-11

関脇 風雅 本店 綾瀬
「えびのせ担々麺」(1180円)、「とりのせ担々麺」「チーズのせ担々麺」(各980円)など、バリエーション豊富な担々麺を楽しむことができる。
東京都葛飾区小菅3-19-19

関脇 馥香 浅草橋
「馥香特製 担々麺」(1470円)は麺が特徴的で、山西省流の手延べ一本麺または刀削麺のどちらかを選べる。
東京都台東区柳橋2-14-2 アリス・マナーガーデン浅草橋1F

小結 芝蘭 板橋店 赤塚
四川料理の名人・下風慎二による人気店。本場の味を再現した「汁なし担々麺」(1000円)は、香辛料の利いたタレが抜群。
東京都板橋区赤塚新町3-3-20

小結 龍高飯店 西葛西店 西葛西
本場中国で流行中の中国東北料理が売り。「担々面」(830円)は、辛味・酸味のバランスがよく、香味野菜を煮込んだ自家製ラー油が特徴。
東京都江戸川区西葛西7-3-2

前頭 同源楼 赤坂見附
中国料理激戦区・赤坂の人気店。「四川担担面」(800円)は、山椒が利いて、青菜と刻みザーサイがアクセントになった逸品。
東京都港区赤坂3-18-8 エムプレスビル2F

前頭 銀座 桃花源 新橋
見た目の美しさにもこだわる四川料理の名店。「担担麺」(1260円)は、スープに自家製ラー油とゴマで作った芝麻醤を使用。
東京都中央区銀座8-6-15 ホテルコムズ銀座内

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